抜け穴の懸念が強まる伐採の「モラトリアム」 ―タスマニアの森林協定をめぐる交渉の現況―

抜け穴の懸念が強まる伐採の「モラトリアム」
―タスマニアの森林協定をめぐる交渉の現況―

JATAN運営委員 原田 公

■名ばかりの「保護協定」
 昨年8月7日、オーストラリア連邦政府のギラード首相とタスマニア州政府のギディング知事は2億7600万ドルの財政出動を伴う天然林脱却の業界再編を目的とする「タスマニア森林政府間協定(Tasmanian Forests Intergovernmental Agreement: IGA)」に署名しました。IGAでモラトリアム(伐採の暫定的停止)の対象とされたのは、環境保護団体のグループが保護を提唱した57.2万haにおよぶ「保護価値の高い森林(HCVF)」のうちの43万haでした。ただし、残された森林についても学術関係者による検証グループ(Independent Verification Group: IVG)が、提唱の森林の大部分(56.3万ha)は、「オーストラリアの国家遺産もしくは世界遺産の基準を一つ以上満たしている」とされ、「州有の森林地帯が持つ多くの自然遺産の価値を訴え、保護する最後の機会となる」*と述べているように、43万haと同等の保護価値を持っていることが科学的に確認されています。IGAの予防原則に基づいて、保護エリアの具体的な策定、持続可能な木材供給量の確定などの協議プロセスが終了するまでのモラトリアムを規定した「保護協定(Conservation Agreement)」が、両政府とタスマニア林業公社の三者による署名により今年1月13日から実施されました。その期限は6月末でした。
 この「保護協定」には当初から多くの批判が噴出しています。「保護」の名を借りた「死刑宣告(death warrant)」と喝破したのは緑の党党首ボブ・ブラウン上院議員(当時)でした。というのも、「協定」でモラトリアムの対象とされたのはIGAで謳われていた43万haではなく42.8万haだったからです。1,950ha相当の43のエリアが伐採予定地として除外されていたのです。しかもこの伐採予定地には、これまで一度も伐採の手が入っていなかったウェルド渓谷の一部や、タスマニア有数の高木ユーカリの生育地、スティクス渓谷などが含まれていました。この意味で保護をめぐる交渉はすべての HCVFの保護を求める立場の者からすればすでに少なくても二度、挫折したといえるでしょう。
*Mackey, Brendan (2012). ‘Tasmanian Forest Agreement – Summary Report of Conservation Values.’ Prepared for the Independent Verification Group of the Tasmanian Forest Agreement. March 2012, p. 9.

■ついに日の目を見た「森林協定案」だが…
 6月21日に長い間待ち望まれた法案、「タスマニア森林協定案 2012(Tasmanian Forests Agreement Bill 2012)」が州議会に上程されました。しかし具体的な保護区や木材産出量は明記されていません(報道では「大綱(framework legislation)」などと称されています)。その理由は法案の中身となる議論が結論に達していないからです。2010 年9月以来断続的に行われている、原生自然協会(Wilderness Society)などの非政府環境保護団体やタスマニア林業協会(Forests Industries Association of Tasmania)をふくむ林業界・労働界の、 IGAに調印した10団体による円卓会議がずっと続いており、期限の6月末を迎えても結論に至りませんでした。そこでIGAの調印団体は両政府に対して結論を出す期限を7月23日まで延長するよう求めました。この要求が受理されたのに伴って、同じく6月末期限の「保護協定」も延長されました。6月30日、州のエネルギー・資源相のブライアン・グリーンは「協定」の8月末までの延長を発表しました。
 なし崩し的に土壇場で「協定」が二ヵ月の延長されたことに対して、州の緑の党党首のニック・マッキム議員は「抜け穴」がさらに膨らむことを危惧しています―「不幸なことに不完全な「保護協定」を補強する手立てはとられなかったようだ」。また、マーケット・フォー・チェンジ(Markets for Change: MFC)のペグ・パットも、円卓会議が国内政治からくる打算を排除するよう求めています―「タスマニアの木材製品はすでに、保護価値を持つ際立ったエリアの容認できない伐採のために市場からの拒絶に見舞われている。だから、世界遺産と国家遺産の価値を認める確実な保護地の創出は極めて重要だ」。

■加速する、保護価値の高い森林の伐採
 現地のヒューオン渓谷環境センター(Huon Valley Environment Centre: HVEC)やMFCなどの団体は、依然としてタスマニア林業公社(Forestry Tasmania: FT)による両政府公約の43万haの伐採がなし崩し的に続いている現状から、「保護協定」の欠陥を強く批判してきました。IGA調印団体のひとつ、オーストラリア環境保護基金(Australian Conservation Foundation)のレポート「タスマニア林業公社による新規森林保護提唱地域における伐採の進行(Forestry Tasmania’s ongoing logging in proposed new forest reserves)」によれば、FTによる計画的伐採が「協定」によってなんら制約されていない現実を訴えています。それどころか、FTが昨年に策定した「三ヵ年計画」に盛り込まれた、43万ha内の木材伐採量が「計画」時の23.6%と比べて、「協定」が開始された以降の方(39.4%)が増えているというのです。

 FTの天然林伐採量が持続可能なキャパシティを超過していることは、3月のIVGによる検証レポートでも確認されました。FTは現在、タ・アン・タスマニア(Ta Ann Tasmania: TAT)に対して合板の単板原料として年間26.5万立方メートルの供給契約を結んでいます。この供給を満たすために43万ha内の保護価値の高い森林をふくむエリアが伐採され続けているのです。
 現在、伐採が進められているHCVFからの木材のほとんどは、TATに供給されています。6月20日付の豪州ABCによる報道によれば、TATはロータリー単板切削の操業プロセスの見直しに入っているといいます。同社が単板の原料に使用しているのは直径20~70センチのユーカリ天然林です。しかし、これを下回る小径木や「低質」材の試験的運用を最近開始しました。エネルギー・資源担当相によれば、本格運用がスタートすれば「州の和平協議で議論されている保護区に供される森林を保護できるかもしれない」と述べています。このあとに植林材を用いたテスト運用も予定されているとのことです。
 この動きがタスマニアばかりか国際的にも高まっているHCVF伐採批判をかわすためだけの一時的な見せかけに終わらないことを願うばかりです。

保護が公約されているFTの伐採エリア(一部、上段はFTによる伐採地コード)
出典: taann.net

■サイバーアクションにご協力ください
 この文章を書いている7月20日現在、タスマニアはある種の静けさの中で円卓会議の議論の推移を固唾をのんで待ち受けているといった状況にあります。天然林材需要をつくっている消費国の日本から一人でも多くの方が、森林破壊由来の合板製品に「ノー」の声をあげていただきたいと思います。
 TATはタスマニア産の木材製品を「環境にやさしい」合板などと偽装による宣伝によって日本の顧客を欺いています。TATとその事業パートナーの三井住商建材、そして製品の顧客である日本の企業は、これら「エコ製品」は植林や伐採後に植林された森林に由来していると喧伝しつづけています。しかし実際は、TATが加工し販売している木材製品は、オールド・グロス林、保護価値の高い森林そしてタスマニアの世界遺産と同等の価値を持つことが第三者により確認された森林に由来するものなのです。

《豪州タスマニアからやってきた「環境にやさしい」フローリング材》
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http://taann.net

【資料】
 タスマニアの森林協定をめぐる交渉推移

※この記事は、2012年7月25日発行の「JATAN News No.91」からの抜粋です。