オーストラリア、ニューサウスウェールズ州南部、州有林伐採現場での事例

オーストラリアの固有種であるコアラは、オーストラリア東部の森林地域に生息していますが、天然林の減少にともないコアラの生息地も次第に失われ、1992年にはニューサウスウェールズ州で危急種(vulnerable)に指定され、連邦政府においても2012年より危急種に指定されています。州有林の伐採地域では、地域森林協定(Regional Forest Agreement:RFA)に基づいた操業が行われており、オールドグロース(Old Growth)林と定義された老齢樹を含む地域や、野生生物が利用する洞のある樹木や沢沿いの地域などは保護されることになっています。しかし、地域森林協定(RFA)による保護の対象となっていない地域にもコアラは生息しています。また、地域森林協定(RFA)による保護の対象下にある地域についても、伐採前の調査を実施して野生生物の巣穴となる洞が樹木にある場合はH(Habitat)の印を付け保護するようにしていますが、そもそもコアラは洞を必要とする動物ではなく、コアラが生息していることを確認するのは非常に困難であることから見過ごしている可能性もあり、現行の森林施業規則において十分な生態系配慮が行われているとは考えにくいと現地NGOは指摘しています。

他にも、絶滅危惧種の保護を規定している環境保護生物多様性保全法(Environmental Protection and Biodiversity Conservation act:EPBC)により保護されていますが、森林地域協定(RFA)に基づく操業が行われている地域については適用の対象外とされています。

コアラの生息しているニューサウスウェールズの州有林から産出されるすべての木材は、製材用に適した材を除き日本製紙の現地企業であるSEFE(South East Fiber Export)に販売されています。SEFEでつくられる木材チップの生産量は年間約90万トンで、その約65%が日本向けに輸出され、主に日本製紙が所有する全国各地の製紙工場に運ばれていると推測されています。オーストラリアからの天然林木材チップの輸入量は、多い年には100万トンを超える時期もありましたが近年減少傾向にあり、2014年現在で63.5万トン(JATAN推定)まで落ち込んでいます。なお、現地カウンターパートの情報によれば、その半分は台湾の日本製紙関連会社に運ばれ、板紙の原料になっているとのことです。

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オーストラリア、ニューサウスウェールズ州北部、石炭採掘現場での事例

ニューサウスウェールズ州北部に位置するレアード州有林(Leard State Forest)は約7,000ヘクタールにわたり広がっており、396種もの在来種が生息しています。その中には、20種以上の絶滅危惧種を含んでいることから非常に重要な森林地域です。とりわけコウモリの生息数はニューサウスウェールズ州で最も多く、12種類以上の種が生息しているとされており、また連邦環境法の下で絶滅危惧種として指定されたコアラの生息地域でもあります。

この州有林の一部に、絶滅危惧指定されているホワイト・ボックス・ガムウッドランドと呼ばれる森林生態系が含まれています。これらのうち、約2,000ヘクタールの固有種や絶滅危惧種が生息する草原や絶滅生態地域を含め、約5,000ヘクタールの天然林が現地企業であるホワイトヘブンの所有する二つの石炭鉱山と、イデミツ・オーストラリア・リソーシーズの所有するボガブライ石炭鉱山により段階的に皆伐されることが予定されています。これらの企業は日本とも深い関係を持っており、イデミツ・オーストラリア・リソーシーズは出光興産の子会社である一方で、ホワイトヘブンについては日本企業が25%の出資(伊藤忠:15%、電源開発:10%)を行っています。出光興産が作成した環境影響報告書において、こうした貴重な森林を伐採することで重大な影響があると認められていますが、オフセット・プロジェクトによって同等の価値を有する森林を保全することができれば、こうした重大な影響を埋め合わせ、長期的に絶滅危惧種が維持できるとの判断をしています。しかし、現地の研究者やNGOなどによれば、ニューサウスウェールズ州の規定と照らし合わせてみても、オフセットとして保全される地域は適切ではなく、この件をめぐる訴訟も起きています。

また、それだけでなく地域住民からは、石炭鉱山開発にともなう粉塵などによる健康被害や地下水低下への地域住民からの懸念が示されています。地下水面は5~7mm低下して、年間18,000トンの粉塵が周辺の農地に降下すると推計されています。

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※この活動はLUSHチャリティポットの支援を受けています。
https://www.lushjapan.com/products/new-charity-pot

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