タスマニア森林問題の現況(現地のメディア報道をもとに)
昨年8月7日、オーストラリア連邦政府のギラード首相とタスマニア州政府のギディング知事は、タスマニアの原生林問題で過去30年以上にわたって林業界側と環境保護派との間で繰り広げられてきた不幸な対立に終止符を打つべく、2億7600万ドルの財政出動を伴う天然林脱却の業界再編を目的とする「タスマニア森林政府間協定(Tasmanian Forests Intergovernmental Agreement: IGA)」に署名した。
しかしこれ以降もタスマニア林業公社は、タ・アン社に単板の木材原料を提供するためにオールドグロス林をふくむ保護価値の高い森林の伐採をつづけていることから、現地のマーケット・フォー・チェンジ(Markets for Change)やヒューオン渓谷環境センター(Huon Valley Environment Centre)などが日本の木材製品購入企業を対象にするサイバーアクション、Ta Ann: Behind the Veneer(タ・アン:タスマニアの森林破壊企業)を展開。また、Still Wild Still Threatenedのメンバーであるミランダ・ギブソンも「オブザーバーツリー(監視の樹)」をスタートさせ、すでに12週間近くの樹上座込みをつづけている。
Ta Ann: Behind the Veneer(タ・アン:タスマニアの森林破壊企業)
IGAに名前を連ねる原生自然協会(The Wilderness Society)などの環境保護団体は57.2万ヘクタールの保護価値の高い森林の保護を提唱しているが、IGAではそのうちの43万ヘクタールの暫定的保護を公約して両政府首脳が署名をした。現在は、学者ら6名のグループによる第三者検証プロセスが進められており、実際にどの程度の森林が保護され(57.2万ヘクタールの中の境界線の策定)、どの程度の量の木材生産が必要であるかという評価が行われている。評価結果は本来、昨年末までに出されるはずだったが現在まで公表されていない。
この評価プロセスで注目されるのが、林業公社とタ・アンとの間で交わされている木材供給契約の存続である。2006年に州内に二つの単板加工施設を持つタ・アンは林業公社から年間26.5万立方メートルのユーカリ材の提供を2027年まで受けつづける契約を結んだ。IGAではこの供給契約が果たせないとする林業公社は43万ヘクタールの内部で保護価値の高い森林の伐採をつづけている。ミランダが樹上座込みのアクションを行っている森(林業公社によれば伐採地コード“TN044B”)も、タ・アンに木材を提供する目的で伐採されている。
両政府の公約を無視し、第三者の検証プロセスをないがしろにする伐採の進行に対して現地の保護グループは黙認する政府に対して不信感を、またタ・アンと林業公社には強い怒りを募らせている。上述の二つのアクションキャンペーンの背後にNGOの深い危機感があることは確かである。
IGAはプロセス途中でまさに内側から崩壊の圧力を受けている。今年1月13日、これまで林業公社の伐採を黙認してきた両政府は現状追認の形で、公約の43万ヘクタールのうちの1950ヘクタールの伐採許可を表明。これにスティックス渓谷、ウェルド渓谷、ターカインなどシンボル的な原生林地帯がふくまれていたことから、ギラード政権と連立を組む緑の党のボブ・ブラウン党首は首相との公式会合をしばらく中断すると応酬した。
2月13日、タ・アン・タスマニアは日本での販売量が5割下落したことを理由に両工場の従業員を最大40名解雇すると発表。これに呼応して、タ・アンをふくむ製材業者大手が加盟する業界側のピーク団体、タスマニア林産業協会(Forest Industries Association of Tasmania)がIGAの離脱を発表した。
業界は口をそろえて、日本や英国のタ・アン顧客企業を標的に市場キャンペーンを展開するNGOを非難するが、販売下落にむしろ日本における需要の冷え込み、豪州ドル高といった経済要因を指摘する声もある。日本や中国の市場に木材製品の輸出攻勢をかけたいタスマニア州政府は2月の下旬に州知事のブライアン・グリーンをプロモーションツアーに送り出した。日本ではタ・アンの顧客企業とも面談を行った。森林問題の対立劇の解決に州政府がイニシアティヴを発揮するよう注文を受けたとの報道がされている。
なお、2月14日付の全国紙「ジ・オーストラリアン」は、日本の顧客企業の中ですでに、タスマニアのユーカリ材を使ったフローリング製品、「オーマイティフロアー」を手掛けるパナソニックが受注契約を減らしていると報道しているが、パナソニック側からはこの発表はいまだされていない。
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